活動の中心だった大岡山はバブル期にゴルフ場や別荘開発が進みましたが、阿瀬や神鍋高原に較べてシカ被害が少ないとされていて、未だ多様な自然が残っています。
平成22年に「山陰海岸世界ジオパーク」の一部として指定された神鍋高原の歴史や地形と豊かで多様な自然環境を学ぶシンポジウムが開催されます。
勝手に名前をつけましたが、正式には「氷ノ山周辺の自然を考える報告会」、主催は「新さわやかな環境づくり但馬地域行動計画推進協議会」で、但馬県民局と鳥取県の共催。
なんと長い名前でしょうね。
会場は日高町神鍋高原の西気コミュニティセンター、兵庫県各地や鳥取県からの参加者で会場は満員、シカ被害問題の関心の高さが分かります。
会場 レジュメ
基調報告として、「但馬地域におけるシカ生息状況の概要」を兵庫県立大の藤木大介准教授が、「シカによる植物被害」をテーマに、コウノトリ市民研究所の菅村定昌副代表からありました。
藤木氏は「2000年初頭に南但方面に多かったシカが香美町や蘇武・神鍋に広がり、但馬全域に増えてきていて、高所のシカが麓近くで越冬している。シカが森林に与える影響は、樹皮や植物への食害で下層植生が衰退し、裸地化による土壌浸食や植物多様性が失われる」など、森が壊れる様子が話されました。
また適正密度管理として、兵庫県が目標としている3万頭以上の捕獲が必要で、全体では達成しているものの地域格差があり、但馬北部の捕獲が少ないそうです。
但馬地域別捕獲目標と実績 今後の課題
菅村氏は奥山・川・海・高原に分けて、「稀少植物や固有種など生物多様性を含め地域の自然に対し、河川改修や里山の減少・登山者増加など人による被害の上に、いまシカがとどめを刺している」現状が話されました。
次に自然保護の取り組みを進めている5団体の代表から活動報告がありました。
①「南但馬の自然を考える会」の西垣さんから、氷ノ山古生沼・古千本湿原の固有種希少種が湿原の乾燥化とシカの食害で衰退しているのと、山頂のトイレ休憩所・登山客の増加による問題に対し、立ち入り制限ロープ張りやシカ網の設置などの保護活動が報告されました。
②「兵庫ウスイロモドキを守る会」近藤さんから、鉢高原に生息しているウスイロモドキ(ヒョウモン蝶類)が餌とするオミナエシの減少や人が山には入らなくなり草刈りが減少したことなど草原環境の変化と保護活動が報告されました。
③鳥取県「氷ノ山ネイチャークラブ」山本さんからは氷ノ山周辺のコキンバイ、サンカヨウ、キャラボク等へのシカ被害と防護柵や登山道の崩れ防止の階段設置の活動。
捕獲したシカの肉と皮の有効利用にも触れられました。
④鳥取県「ニホンジカによる食害から氷ノ山の高山植物を守る会」の戸井さんから氷ノ山山腹のサンカヨウ群落・キンバイソウへの被害だけでなく、檜の樹皮食害や鉄道及び車輌への衝突の被害が、併せて電気柵の設置、くくり罠による捕獲等の活動も報告されました。
⑤地元「神鍋山野草を愛でる会」案内人泉さんから、5年にわたる神鍋高原の観察で見つけた自然植物850種と希少種の観察と保護活動が報告されました。
これら植物の写真は道の駅神鍋高原のギャラリーに展示してありますが、一部のものは絶滅しているかもしれないそうです。
神鍋高原ジオエリアに自生する多様な植物を愛でつつ、貴重種も含め人やシカから守る活動が進んでいます。
続いて会長の田中さんが「神鍋高原を中心とするシカ生息調査の結果」として昨年9月から12月に渡る目撃調査結果を報告されました。
評価では広域基幹林道(蘇武妙見線)もあり、神鍋高原周辺でシカが多数住みついていて降雪前に山から下って山麓で冬越ししていることが報告されました。
広域的に見るとシカが南部から北部に移行していると推定され、被害が認められない新温泉町以外で笹など下層の植物に被害が広がり、土壌のくずれも認められるということでした。
愛でる会の活動 シカ生息調査報告
各団体の報告から分かるように、豊かといわれる但馬の自然のなかで生物多様性が人や獣(特にシカ)によって被害を受けている実態、それに対する保護団体の活動とそれでは追いつかない現状が分かってきます。
シカ被害といえば里の農作物への被害が知られていますが、それだけでなく「森が壊れてきている」「人によって壊されつつある自然にシカがとどめを刺している」この言葉が胸に響きます。
研究者や環境保護団体・自然愛好家・住民団体・個人がそれぞれの立場で、自然環境保護を考えるよい機会となりました。
シカの適正密度を保つにはロープやシカ網・電気柵の設置ではなく、狩猟やワナによる捕獲が欠かせません。
次は、3万頭超の捕獲された鹿が廃棄処分されている現状を憂い、鹿肉を食べる活動を続けている「但馬もみじの会」をレポートします。
自然環境に恵まれている但馬ですが、近年絶滅が危惧される動植物が増えています。
その中で生物多様性の保全や育成活動を行っている団体の事例が発表されました。
高校生によるラムサール湿地での活動発表は「三川権現等でのシャクナゲ保存活動」「矢田川での保存活動」「神鍋高原での稀少山野草の調査・保全活動」「高校生によるラムサール湿地調査・保全活動」の4団体です。
会場は自然保護に関心を持つ団体や個人の参加で満員、用意された資料が足りなくなるほどでした。
高校生による湿地調査で、絶滅危惧種に指定されているヒヌマイトトンボが確認されている様子は、但馬の自然の豊かさを物語っています。
「神鍋山野草を愛でる会」案内人 泉さんの発表
「この会は平成21年に地元会員20名で発足して以来5年が経過致しました。3年前にジオパークに承認されたのを機会に神鍋高原の自然豊かな場所を自然環境のままで一定のエリアを定期的に観察する方法にしてから、1年目400種、2年目300種、3年目150種と神鍋高原で見られる野草花も今日までに850種も楽しんで会員も52名まで増え、観察した花も写真で残し道の駅に展示しどなたでも楽しんで頂ける様にしています。
しかしながら、発足当時は考えもつかなかった問題も出てきました。
花の名前を図鑑等で調べても解らない時の最終的な相談場所が無かった事、観察した後のタジマタムラソウが誰かに盗掘された時の悲しみ、山野草ブームによる大掛かりなコシアブラ採取被害、ゴミ問題、外来種問題・・等々です。
又、最近では増えすぎた鹿の被害が深刻で、渓谷のザゼンソウやサンカヨウ等に大きな被害が出ています。さらに住民の方々の中には山野草は雑草として見ている人も多く、モミジを植えた事でアケボノソウがその場所で消えてしまった事、又観光地として美しく見せる為、花が咲く前に刈り取るカセンソウ等新たな悩みも増えました。
その中にあって昨年は神鍋高原で18年ぶりに発見したナツエビネや、結成して初めて見るツチアケビを猪や鹿被害と盗掘から守るため地主の了解の元、貴重種は囲いをして守りました。
会員も兵庫県下を始め鳥取県からも集まり、昨年全行事に参加された1名の会員が初めて出ました。
今年も清滝地区や、阿瀬渓谷を地元の方と協力して山野草の愛で方、又その自然環境を守る大切さを発信して草花を大切に愛でる取り組みをこの地から広めてゆきたいと思っています。
3月~11月の期間月2回(第2と第4火曜日)の行事を会員の声を聞きながら楽しみ、一つでも名前を覚え、心身共にリフレッシュし活動を続けて行きます。」
配布された「1月分花カレンダー」 それぞれ熱心な活動が報告されましたが、①但馬全域に広がる深刻な鹿被害②保全再生活動の中で外来種の繁殖や遠隔地からの苗の移植で起こる生物多様性の変化③ゴミの不法投棄、植物の持ち帰りなどの問題点が指摘されました。
神鍋山野草を愛でる会の田中会長と案内人の泉さんから、シカによる食害のレポートが入りましたので紹介します。
「28日会長と私二人で名色~金山峠までの蘇武林道を植物調査にでかけて、異常な光景に出合いました。神鍋高原では初めて鹿よけネットに掛った鹿を発見してから、次々に繰り広げる姿に愕然とし直ちにA4にまとめました。多くの人にこの状態を知って頂きたいと思います。(泉 鐘八郎)」 (クリックで拡大します)
<シカ被害レポート>
拡大版 → 「sobu-sikahigai.pdf」をダウンロード
多様な自然や植物が残る神鍋高原で、希少種のツチアケビが見つかった記事が13日地元紙但馬版に掲載されました。
山野草を愛でる会の7月例会で、記事になる前に一緒に確認させてもらいました。
近くには鹿の食べ後や寝床まであったので、愛でる会役員で柵を設けたとのこと。
ツチアケビの花
貴重・希少種はもちろんですが、植物を痛めつけるものには山野草マニアや薬草採取業者等による人害と鹿や猪による獣害が無視できなくなっています。
獣害といえば田や畑を耕す人間が被害者ですが、鹿の繁殖で森や植物が被害者になって生態系が崩れつつあります。
貴重なツチアケビの発見とともに、草花の種(しゅ)が激減している様子を記事は伝えています。